現役OBからの提言

「私の考える研究開発リーダー」 −独創性ある研究開発−

且草カ堂 マテリアルサイエンス研究センター 素材開発研究所長
河野 善行

1.はじめに
現在は情報化社会であるという。顧客は一般情報から専門情報に至るまで望めばほとんどの情報はキーボードを叩けば入手することができる。情報をもとに必要なモノはなんでも個人レベルで選択して入手できるマチュアな時代である。顧客ニーズが激しくかつ速度ある変化をする時代でビジネスを継続成功させるために、組織論も種々論じられているが組織論だけで対応できるのであろうか。現在は企業と顧客とで価値創造・満足の競争をしなければならない時代と考えることができる。生活をしていくために必要なものを持っているまたほとんどの情報を入手できる賢い顧客に対してニーズを創造して提示していかなければ生き残れない時代となってきているという認識を我々はまず持つ必要がある。そしてこの解決は企業を構成する個人に求めるしかないのではないだろうか。もっともわかりやすい研究開発のドメインでさらに上述したフレームを考察したい。すなわち独創的な研究をする個の特性を論じついでこれら研究者のリーダーシップをとることまたは企業において独創性のある研究ができる環境、研究者が個性を発揮しやすい環境について論じたい。

2.企業における研究者
研究者の集団に対して適切なリーダーシップをとるためには、まず研究者としてのキャリアを積むことが望ましい。研究者は、前人の文献を読み、いままでの経験、それに基づく直感、またセレンディピティ:幸運な偶然も味方にして新しい発見をする。1)それは通常、個人が蓄積してきた知識、経験をもとにある仮説をたてその妥当性を実験等で検証するという地道な作業により達成できる。その分野にまだ使われていない新規な方法論の適用で一気にブレークスルーできることもある。 2)通常成果、幸運は不連続に現れる。研究をしていると一二年に一回このようなブレークスルーに出会うことができる。めったにはないがこれがあるから研究はやめられないともいえる所以である。一般にはあまりいい印象を与える言葉ではないが、研究者にはいわゆる虚栄心(学会や上司、同僚から評価されたいという心情)、および野心(商品化したいとかビジネスで成功したいという意志)は不可欠である。そして虚栄心には関係しないが、野心には権力ないしは必要なパワーは不可欠である。 3)  ストイックに虚栄心と野心を持って個性を出し研究成果を上げたヒトは後輩の研究者の研究をやりやすい環境について責任をもつことになる。

3.研究者が個性を発揮しやすい環境
全ての課題の回答はヒトにある、それぞれの立場、能力で如何にモチベーションを上げて、個人の今までの知識、経験、直感を吐き出していくかが勝負でありリーダーはそのような環境を創れるかどうかが腕の見せ所である。

目の前に現実としてのある事象が現れてもヒトが異なればインスパイアーされるアイデアは異なる。そしてその後のやり方、進め方も異なってくるので展開はまったく違ったものになってくる。これに研究が進展するとヒトとヒトの相互作用が生じてくる。無限の可能性をマネージメントできる所以である

研究開発の経験を有するリーダーは、うまく研究員の個性を引き出さねばならない。

個人の発想はその独自性、発展性をなかなか認識できないという側面も持つ。波長があう組み合わせでは相乗作用が生じ、さらに昇華されることもある。 リーダーは 個人の独自性ややり方をよく理解する必要がある。

研究には自由、個性が必要である。しかし研究者の組織をマネージメントするためには集団の規律という側面も必要であることはスポーツのラグビーやサッカーと同じであることを蛇足ながら最後に記しておく。

参考文献
•  河野善行,高分子, 49 , 648  ( 2000 )
•  河野善行, FRAGRANCE JOURNAL , 26 , 9 ( 1998 )
•  塩野七生, ” ローマ人の物語W ” ,新潮社,( 1995 )

略歴
1977年3月早稲田大学理工学研究科修士課程終了。 同年且草カ堂入社。1982年新技術開発事業団創造科学推進事業参加。 現在且草カ堂基盤研究本部マテリアルサイエンス研究センター素材開発研究所長、主幹研究員、農学博士。