第8回国際バイオEXPO&国際バイオフォーラム

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 アジア最大のバイオイベントである第8回国際バイオEXPO&国際バイオフォーラムにおける応化会会員の活躍の様子を取材しましたのでお知らせします。3年前に武岡真司教授の同会合における発表を報告しましたのでまだご記憶に残っていることと思いますが、改めて会員諸氏のバイオ関係に対する興味を新たにしていただきたいとの思いを込めて記事にしました。

 今回は平成21年7月1日から7月3日まで東京ビックサイト西展示棟にて開催されました。筆者は、毎年本会合に参加し、国際バイオEXPOの基調講演あるいは特別講演を聴講しているのでその間を利用して早稲田大学TLO(Waseda Technology Licensing Organization)からご紹介のあった6名の先生方のうち下表の各教授のご講演内容および会場風景を紹介します。
本講演は、大学で発明された新技術を紹介し、企業化に繋げることを最終目標としているので、当該技術についてMTAが締結されて、企業化されるとWTLOに一時金を含む技術料の他に、将来ロイヤリティが支払われるのでも大きなメリットを生み出す糸口となる。

演題名講演者発表日時
新規酵素機能の探索と工業的利用
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木野邦器教授7/2 16:50-17:20
生体触媒による芳香族ヒドロキシカルボン酸の選択的合成
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桐村光太郎教授7/3 12:50-13:20
蛍光消光現象を利用した新しい生体分子解析技術
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常田 聡教授7/3 13:50-14:20





【木野邦器 教授】
 微生物の多様な機能を利用した物質変換プロセスは、省エネ型で環境調和性に優れ、化学触媒では困難な反応や精密合成をも可能にするため持続的社会の実現に向けて革新的なバイオプロセスの開発に強い期待が寄せられている。バイオプロセスの主役である酵素は、分子進化の過程で多様化し、人類の予想をはるかに上回る多種多様な機能を有しているものが数多く存在すると考えられる。また、遺伝子工学的手法を適用して酵素の機能改変や増強も可能であるため工業化プロセスのデザインも比較的容易で、生産効率を格段に向上させることも可能である。このようなことから、木野研究室では工業的利用性の高い「アミノ酸水酸化酵素」や「ペプチド合成酵素」を中心とした酵素ライブラリーの開発を進めている。
 今回は、アミノ酸水酸化酵素としてL-Proline hydroxylase, Aliphatic amino acid hydroxylase, Aromatic amino acid hydroxylaseの探索と4-Hydroxyisoleucine, 5-Hydroxy-L-triptophanの合成法および組み換え大腸菌を用いたcis-4-Hydroxy-L-proline,の製造法を示された。また、ペプチド合成酵素としてD-Ala-D-Ala ligaseやL-Amino acid ligaseを用いて1-stepジペプチド合成法を示された。特に、B. subtilis 由来のジペプチド酵素のうちRizAという酵素は、N末端アミノ酸としてアルギニンを用いてC末端アミノ酸20種と反応させた結果、Prolinを除く19種のアミノ酸と反応するという極めてユニークな基質特異性を有していることが示された。
聴講後、これらの研究結果は、工業的利用価値が高いと考えられ、近い将来、国内外の企業による実用化へ進展する予感がした。





【桐村光太郎 教授】
 生体触媒による芳香族ヒドロキシカルボン酸の選択的合成について講演された。桐村教授の研究は、工業的な実用性を高めることすなわち実践的であることを主眼としている。従来のフェノール類の工業的なカルボキシル化には、Kolbe-Schmitt反応が使用されてきたが、高温・高圧下における反応条件が必要であり、かつ、副生成物の混入が避けられないデメリットがあった。桐村研ではこのデメリットを解消するために常温・常圧下における反応条件で、かつ、副生成物の混入を回避できる選択的芳香族カルボン酸の製造方法を研究してきた。すなわち、生体触媒(酵素または微生物)を用いて炭酸固定反応によるγ−レゾルシン酸、サリチル酸およびサリチル酸誘導体の酵素的合成法や水酸基導入反応によるp−ヒドロキシ安息香酸の微生物変換による合成法を開発した。まず、γ-レゾルシン酸を選択的に生成する酵素を探索してきた結果見出されたRhizobium radiobacter WU-0108という微生物は、好気条件下、レゾルシノールを基質として位置選択的に炭酸イオンを導入し、γ体のみを選択的に生成することを見出した。さらに、上記の微生物からγ-レゾルシン酸合成酵素を分離精製して検討した結果、この酵素は非酸化的に脱炭酸を触媒することも判明し、可逆的に炭酸固定と脱炭酸を触媒することを解明した。工業的実用性を高めるためにこの脱炭酸酵素を高発現する組換え大腸菌を用いて繰り返し試験を行ったところ5回の繰り返しが可能で、結果として30℃、16時間で最大収率も45%でγ―レゾルシン酸の生産が可能となった。また、基質特異性を検討した結果、レゾルシノールとカテコールに関しては可逆的に炭酸固定と脱炭酸を触媒するが、サリチル酸、m-またはp-ヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロまたは3,4-ジヒドロ安息香酸に関しては触媒しないことが報告された。  同様な手法によりサリチル酸合成微生物の探索結果も報告され、Tricosporon moniliiforme WU-0401株を取得してサリチル酸の選択的生産を確認するとともに、精製したサリチル酸合成酵素の可逆的に炭酸固定と脱炭酸を触媒すること並びに基質特異性した結果を報告された。
上記手法は、工業的利用可能性を秘めており、技術導出の期待が高まるところである。




【常田 聡 教授】
 核酸(DNA&RNA)は全ての生命体の基礎となる分子で生体試料中にある核酸を定量する手法は、生命科学分野において欠かすことのできない重要なツールである。今回開発した定量手法(ABC法;Alternatively Binding Probe Competitive Assay)は、現在広く利用されている従来型のPCR(Polymerase Chain Reaction)法に比べて操作が簡便でかつ、迅速であり、内部標準DNAを使用することで、PCR阻害物質の影響をキャンセルでき、正確な定量ができるとともにDNA増幅反応後に蛍光を測定するだけで標的DNAの定量が可能で、リアルタイムに蛍光を測定する必要がないために安価な装置で定量できることが大きな特徴である。排水処理プロセスでアンモニア酸化を担う環境浄化微生物(アンモニア酸化細菌のアンモニア酸化酵素遺伝子をモデル遺伝子として用いた実験では非常に高い相関係数(R=0.999)の検量線を作成することができた。また、阻害物質としてフミン酸(0-8ng/μL)が存在した場合でも従来法ではフミン酸濃度が3ng/μL以上では大きなずれが生じるのに反して本法では予想通り正確な測定が可能であった。
今後の応用先としては白血病マーカー遺伝子、遺伝子組み換え作物、植物病原菌、汚染物質分解菌等の遺伝子測定に利用可能であり、C型肝炎ウイルスの阻害薬(NS3helicase阻害物質)の探索からC型肝炎ウイルス治療薬の創製等に利用可能であり、利用価値が高く、将来性が大いに期待できる測定法であると考えられた。



 その他にポスター展示されていた「産学連携成果」として理工学術院客員教授 森 有一氏、同客員准教授 吉岡 浩氏が開発した高機能性高分子膜(アイメックフィルム)を用いた植物栽培技術が株式会社不二工芸製作所アグリ事業部により実用化された新規農法(アイメックTM農法)により栽培された糖分、アミノ酸成分が増したプチトマトが訪問者に配布され、好評を博していました。【下記写真参照】

早稲田大学TLOの方々 来訪者に配布されたプチトマト

(取材と撮影:広報委員 相馬威宣)