様々な分野で活躍する卒業生

山口 誠一郎さん(1992年学部卒 豊倉・平沢研)

現:中国フジテレビ:富士電視台 支局長

【中国でテレビ報道記者として活躍されています】

四川大地震

四川省・?(サンズイに文)川に激しい縦揺れ地震が襲い、惨事が始まりました。断層に近い街は平屋建ても5階建てもことごとく倒壊、解放軍や武装警察や消防が何千人被災地に入っても、まだ人手不足で掘り起こせない瓦礫がいっぱいでした。数日経っても救援隊が到達すらできない村がたくさんありました。私たちはカメラで瓦礫をたくさん捉えてきましたが、この瓦礫の下で大勢の人が息を引き取っていったかと思うと、今でも涙が出てきます。


ビル倒壊現場での救命活動・四川省綿竹市


軍用車の列に入って現場へ向かう

地震は貧しい地域を襲いました。地震は中国格差社会の底辺を襲いました。自分の力だけで以前の生活を取り戻すことはできない人が何万人もいます。それはお金の問題だけでなく、医療、衛生防疫、治安、教育、あらゆるものがもともと低質だったため、困難を極めています。このような様子を日本のTV局が自ら撮影し日本で報道することは大きな意義があり、震災報道は今後も続きます。

さて、日本をはじめとする海外TV局は、四川省において自らのカメラで撮影した映像を流すことに心血を注ぎました。中国における常駐外国人記者数は日本人が最も多い100人超です。こんなに多い理由には、中国への関心の高まり以外に、中国ではニュース映像を自力で撮影しなければならない局面があまりに多いことがあげられます。


山中は余震で落石の危険が続く

食料テントと発電機を積んで現場へ向かう

中国国内のTV報道は外国人・日本人の関心をすべて網羅しないため、中国TV局の映像提供だけでは足りません。例えば河北省餃子事件、カルフールデモなど、中国のTVではほとんど報道されませんでしたから、すべて僕ら小さな支局事務所のスタッフが自ら撮影し伝送する必要に迫られます。欧米や中東のようにロイターTV、APTN、地元TV局から映像を買って済ませるわけにはいきません。欧米中東では極端な話、現地へ赴き顔出しリポートだけ撮影すれば、あとは貰い映像でVTRが作れてしまうのですが、中国では餃子もデモも鶏も全部自力撮影しなければなりません。

それゆえ日本のテレビ局の中国支局は日ごろから独自取材技術を鍛えており、四川大地震は各社とも力の発揮のしどころでした。各TV局は現場一番のりとか、他社に先駆けての生中継、映像伝送にしのぎを削りました。

日本では撮影・伝送・中継・原稿執筆それぞれ担当者を分けて仕事しますが、海外ではこれらの仕事を1,2人でしなければなりません。ですからエンジニアもTVリポートし、リポーターも伝送や中継技術をできた方がはるかに有利です。ここが速報力の差となります。

私は化学とは縁の薄い原稿執筆の仕事に従事していますが、学校で学んだエンジニアリングの考察方法と活用方法はTV局で大いに役立っています。北京での仕事のパートナーは早大電気工学出身のエンジニアで、彼から多くの技術と知恵を学んで仕事しています。見たい映像を早くOAすることに心血を注いでいるTVニュース番組を引き続きご愛顧いただけると幸いです。


火事場泥棒逮捕の瞬間に遭遇

ところで四川大地震は中国TVメディア界にも大きな時代の変革をもたらしました。 旧来からの中国大手メディアである新華社やCCTV中央電視台は、政府や党の広報機関という公的な役割を負っています。そのため、記事内容はすべて本社の厳正なチェックがあり、これまでは現場から無尽蔵に写真や映像が出てくることはありませんでした。中国のTV局が現場からの生中継リポートやVTRリポートをこんなにたくさん放送したのは四川の震災報道が初めてと思われます。その様子は日本のCS放送chのCCTV4でいまもOAしています。


新華社が温総理の被災地訪問を報道

中国は共産党単独政権体制を維持したまま、国内社会を世界標準化するという過去に例のない試みを進めています。中国国内の震災報道では被災地の惨状が報じられるとともに、胡錦濤主席・温家宝総理の現場指導映像といった官製報道もたくさん流れましたし、日本救援隊の映像もたくさん流れました。中国の昔は官製報道、官管制報道のみでしたからTV生中継はほとんどありませんでした。こんにちの中国はメディア界も過去に前例のない変革の時代に入りました。 そのような変革と、旧来の統制のなかで、外国メディア中国支局は活動しています。このような背景を理解していただきながら、日本TV局の中国報道を見ていただけるといっそう面白いかと存じます。

(終わり)

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